『行け!稲中卓球部』『ヒミズ』などを手がけた人気漫画家・古谷実の問題作『ヒメアノ~ル』が映画化されました。
序盤は濱田岳さん演じる岡田と、ムロツヨシさん演じる「安藤」のコメディ要素が強い物語だったのですが、中盤から一気にサイコサスペンスにガラリと変わり、快楽殺人者の「森田」を演じるV6の森田剛さんの怪演っぷりが半端なく恐ろしかった作品でした。
今回は映画版『ヒメアノ~ル』について、ネタバレと感想、筆者が作品を観て思ったことをご紹介していきます。
『ヒメアノ~ル』あらすじ
なにも起こらない日々に焦りを感じながら、ビル清掃会社のパートタイマーとして働く岡田(濱田岳)
同僚の安藤(ムロツヨシ)に想いを寄せるユカ(佐津川愛美)との恋のキューピット役を頼まれ、ユカが働くカフェに向かうと、そこで高校時代の同級生・森田正一(森田剛)と出会う。ユカから、森田にストーキングされていると知らされた岡田は、高校時代過酷ないじめを受けていた森田に対して、不穏な気持ちを抱くが・・・。岡田とユカ、そして友人の安藤らの恋や性に悩む平凡な日常。
ユカをつけ狙い、次々と殺人を重ねるサイコキラー森田正一の絶望。今、2つの物語が危険に交錯する。「ヒメアノ~ル」公式HPより引用
『ヒメアノ~ル』予告編
https://youtu.be/bFgLQGyKn9I
原作と映画で随分と異なる部分が多かった。
原作を99分にまとめるというのは正直無理であることはわかっているのですが、映画と原作では随分と異なる部分がありました。
ざっくりと説明すると・・・
・岡田と森田は原作では飲みに行ってない。
・安藤は森田に拳銃で襲われたが、原作では襲われていない。
・ユカも原作では森田に襲われていない。
・岡田と森田は同級生だったが、原作では二人が一緒にゲームしていたことはない。岡田はイジメに加担していない。
・車に乗るシーンも原作にはない。
・「お母さん!麦茶持ってきて!」あの悲しいラストシーンは原作には全くない。
森田はなぜユカを狙っていたのか?
どうして森田がユカを狙っていたのか疑問に思った方も多いかもしれません。
映画ではユカに好意を抱いているようなセリフやシーンはありませんでしたからね。
ただ闇雲にストーカーしていたわけではなく、理由はあるのです。
森田が中学生の時に憧れていた音楽教師にユカが似ていたからなのです。
首を絞めて殺したいくらい・・・。
森田は典型的な『無秩序型殺人犯』
『無秩序型』とは、社会不適応で孤立しがち。外見に無頓着で身の振り方がガサツ。
孤独でいるうちに殺人の妄想ばかりしはじめ、計画性はなく衝動的に殺人行為をしてしまうのです。
『殺人が究極快楽』となり、殺めることへの欲望が抑えきれず次々人を殺してしまう。
映画の森田は『無秩序型殺人犯』の要素が色濃く表現されていたように思われます。
森田正一を演じる『森田剛』が怖かった・・・。
映画では森田剛さんが度々トランクス姿になっているシーンがあったのですが、あの貧弱な足が私にはとても不気味でした。
走って逃げようとする男性の背中に何度も何度も包丁で刺し、後半になると包丁を先っちょだけ何度も刺している場面は本当に不快になりました。
あれは単にエゲつないやり方なのかな?と思ったり、あの貧弱な身体だから体力や腕力がなくなり途中疲れてきて後半先っちょだけ刺していたのかのかも・・・とも考えたり。
もしかしたら途中で刺す行為に「飽きた」のかな?と、一人悶々と悩んでおりました。
あのシーンは特に印象に残り、そしてとても不気味で痛くなる映像でした・・・。
最後のシーンで見せた『森田正一の顔』
森田が運転中、犬の散歩をしている老人が目の前に現れ、大きくハンドルを切り電柱に衝突してしまう。
その衝撃のせいでか、森田は突然表情が変わる。
ほんの数秒前までは殺そうとしていた岡田に向かって
「あれ?岡田君?」
「借りてたゲーム返さなきゃ」
と、突然ゲームを探し始める。もちろん奪った車の中にゲームはないのに・・・。
「お母さん!麦茶2つ!」
そこには、それまで散々無表情で不気味で残忍なことをしてきた森田ではなく、高校生の『森田正一』がいた。
「また遊びに来てよ!」
警察に捕まりながら森田は岡田に満面の笑みで言い、岡田は小さい声で「うん」と頷いた。
場面が変わり、高校生の頃の森田と岡田が楽しくTVゲームをしている。
そして森田は元気よく大きな声で
「お母さん!麦茶持ってきて!」
最後のシーンを文章にしました。
このラストは先にも述べたとおり、原作とは全く違います。
原作は警察にあっさり捕まって終わってしまいます。本当に地味なラストです。
ただ、物語の途中で森田は中学生の頃に自分が「普通ではない」ことに気付き、悔しくて死にたくなり涙を流しているシーンがありました。
最後に・・・
漫画の森田も、映画の森田も単なる『快楽殺人者』ではなく『被害者』であり、そして『異常者』ではなく、『人間』だということを強調したかったのではないでしょうか。
人を殺めるのと、イジメにより人の心を崩壊させるのは違うものなのだろうか・・・と考えてしまう作品でした。
【記事:ジョージ・A・ロメ子】
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